
今年の見どころ
『スター・トレック』のエイリアン56体に対抗するスウェーデン映画の驚くべき老けメイク
ロサンゼンス時間の2月25日、第89回アカデミー賞メイク・ヘアスタイリング賞の候補者たちが、ビバリーヒルズにあるAMPAS(Academy of Motion Picture Arts and Sciences、映画芸術科学アカデミー)の本部で開催されたトークイベントに登壇。今年は『スター・トレック BEYOND』『スーサイド・スクワッド』『幸せなひとりぼっち』の3作品のヘア&メイクのアーティストたちが参加した。

スウェーデン映画『幸せなひとりぼっち』のコーナー
『幸せなひとりぼっち』のメイクアップ・デザイナー、エヴァ・フォン・バールとラブ・ラーソンは、スウェーデンのストックホルムでメイクアップ・デザイン会社を経営する夫婦だ。昨年の『100歳の華麗なる冒険』(2013)に続いて2度目のオスカーノミネートとなる。『幸せなひとりぼっち』は、妻に先立たれた孤独で偏屈な老人と隣人たちの交流を描きスウェーデンで大ヒットした人間ドラマ。クリーチャーやモンスターといった分かりやすい特殊メイクではないが、主人公を演じるロルフ・ラッスゴードの老けメイクが実に自然で全く違和感がない。今回のチャレンジについてバールは、「おでこから頭の後ろまで特殊メイクを施しているの。つまり頭の半分は特殊メイクで、半分は彼自身の肌なのよ。それを自然に見せるというのはとても大変な仕事だったわ」と振り返り、ラーソンが「ほとんどの人たちは彼がメイクをしているのに気付かない。そういうメイクはとても難しいんだ」と付け加えた。

『幸せなひとりぼっち』の主人公オーヴェの老けメイク
DCコミックスの悪役たちを主人公にした人気コミックを映画化し、全世界で3億ドル(約300億円)を超える大ヒットを記録した『スーサイド・スクワッド』。ワニのような皮膚を持つキラー・クロック(アドウェール・アキノエ=アグバエ)の特殊メイクをクリストファー・アレン・ネルソンが手掛け、ジョーカー(ジャレッド・レトー)やハーレイ・クイン(マーゴット・ロビー)のかつらをジョルジオ・グレゴリーニが担当。ジョーカーやハーレイ・クインのメイクとヘア、エル・ディアブロ(ジェイ・ヘルナンデス)のタトゥーなどをアレッサンドロ・ベルトラッジがデザインした。3人とも今回が初のノミネートとなる。ベルトラッジにとって最大のチャレンジは、やはりあのアイコニックなキャラクターをどう扱うかだった。「一番大変だったのはジョーカーのメイク。ジョーカーはこれまで(の映画)に素晴らしいものがたくさんあったしね。特にヒース・レジャーは見事だった。もしひどい仕事をしたらファンが僕の家に押し寄せてきて殺されるよ(笑)。だから自分が出来るベストの仕事をした。少し今までとは違うものをやりながらね」。

『スター・トレック BEYOND』のコーナー
『スーサイド・スクワッド』のようにメイクでキャラクターをつくり出せる作品は、メイクアップアーティストたちにとって夢のような仕事だとベルトラッジは言い、ネルソンはメイクが役者たちの芝居をより高めると断言する。「キラー・クロックもジョーカーもメイクなしに成立しない。こういったメイクがキャラクターをつくり、役者たちがそのメイクに対する演技を持ち込むんだ。それらは一緒に機能するんだよ」。

『スター・トレック BEYOND』のエイリアンたち
リブートした『スター・トレック』シリーズの3作目『スター・トレック BEYOND』。メイクアップアーティストのジョエル・ハーロウはシリーズ第1作でアカデミー賞を受賞しており、今回が3度目のノミネート。リチャード・アロンゾにとっては初のノミネートとなる。『スター・トレック』では伝統として毎回特殊メイクによるエイリアンたちが登場する。しかし今回、ハーロウとアロンゾが手掛けたエイリアンの数は全部で56体。特殊メイクのチームだけで60人ものスタッフが関わるという、CG全盛の今のハリウッドにおいて異例のスケールだった。映画づくりでは全ての分野でテクノロジーが日進月歩を遂げているが、ハーロウは、特殊メイクにおいて楽なやり方はないと言う。「マテリアルは確かに良くなってきている。でも近道はない。一つのキャラクターでうまくいっても、残りの55のエイリアンにそれが通用するわけじゃないんだ。だから常にチャレンジだね。もしチャレンジじゃなければどこかで近道をしている。この仕事はチャレンジであるべきなんだ」。

『スーサイド・スクワッド』のコーナー
特殊メイクの分野を目指す若者たちへのアドバイスについて、ハーロウは以下のように述べた。「純粋にアートをやるんだ。認められたいとかいう目的でやってはいけない。大好きだからやるんだ。それ以外の選択肢はないという理由でね」。

『スーサイド・スクワッド』のワニ男キラー・クロック
メイクアップアーティスト&ヘアスタイリスト組合賞では『スター・トレック BEYOND』が最優秀特殊メイク賞を受賞。下馬評でも圧倒的に本作の受賞が有力視されているが、個人的には特殊メイクと分からない『幸せなひとりぼっち』のようなドラマ作品が新鮮に感じられた。

『スーサイド・スクワッド』のワニ男キラー・クロックの入れ歯

『スーサイド・スクワッド』のハーレイ・クインのかつら

『スーサイド・スクワッド』のジョーカーのかつら
撮影・取材・文:細谷佳史
今年の見どころ一覧
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文:Yahoo!映画
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文:Yahoo!映画
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撮影・取材・文:細谷佳史
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取材・文:細谷佳史、吉川優子 撮影:細谷佳史
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取材・文:坂田正樹 写真:中村好伸
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取材・文:シネマトゥデイ編集部 石神恵美子 撮影:日吉永遠
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文:神武団四郎