
なぜここまで!?ホラー&ファンタジーが賞レースを席巻している理由
第90回アカデミー賞のノミネートには、例年にないサプライズがあった。映画業界におけるメインストリームの賞からは無視されるのが常であるジャンル、すなわちホラー&ファンタジーに属する映画が作品賞候補に2本も名を連ねたのだ。最多13部門ノミネートを果たした『シェイプ・オブ・ウォーター』と、主要4部門をうかがう『ゲット・アウト』である。(文:高橋諭治)
もちろんべネチア国際映画祭で金獅子賞に輝き、『スリー・ビルボード』とともに全米賞レースを牽引してきた『シェイプ・オブ・ウォーター』と、昨年2月の全米封切り時から批評家筋の絶賛を博し、ゴールデン・グローブ賞の作品賞、男優賞(共にコメディー/ミュージカル部門)にもノミネートされた『ゲット・アウト』が、アカデミー賞に参戦することにはまったく異論はない。むしろ順当と言える。
しかしアカデミー賞の過去20年間を振り返ってみると、ホラー&ファンタジーにスポットライトが当たった例は極めて少ない。第64回に『羊たちの沈黙』(1990)が作品賞、主演男優賞、主演女優賞、監督賞、脚色賞の主要5部門を独占。そして第76回に『ロード・オブ・ザ・リング/王の帰還』(2003)が作品賞、監督賞ほか11部門に輝いたケースくらいである。

では、なぜ『シェイプ・オブ・ウォーター』と『ゲット・アウト』が今年の賞レースで脚光を浴びているのか。ホラー&ファンタジーというジャンル全般に対する世間の見方が突然変わったわけではなく、やはり純粋な作品力の高さとその内容が時代にマッチしたこと、この2点が高評価の理由として挙げられる。
ギレルモ・デル・トロ監督の古典的なモンスター・ホラーへの偏愛がうかがえる『シェイプ・オブ・ウォーター』は、"美女と野獣"バリエーションのラブ・ファンタジーである。劇中に登場する水棲クリーチャーは異形の怪物で、ヒロインのイライザ(サリー・ホーキンス)は口のきけない障害を抱えた孤独な女性だ。そんな種の違いを超えたアウトサイダー同士の魂の共鳴を、イライザの友人であるゲイの売れない画家(リチャード・ジェンキンス)、黒人の女性清掃員(オクタヴィア・スペンサー)が後押しする。いわば本作はマイノリティーの人々が自分たちと異なる存在を虐げる体制側に反旗を翻す物語であり、それが"多様性の危うさ"が叫ばれる現代の風潮に一石を投じた。過去の作品でもアウトサイダーへのシンパシーを表明してきたデル・トロ監督の円熟味を増した作風が、観る者の胸に響く幻想的なおとぎ話として結実した一作と言えよう。
『シェイプ・オブ・ウォーター(R15+)』予告編
ジョーダン・ピール監督のデビュー作『ゲット・アウト』は、人種差別を扱ったホラーだ。白人である恋人の実家を訪問した黒人青年(ダニエル・カルーヤ)の悪夢のような運命を描いたこの映画は、ネオナチやKKK(クー・クラックス・クラン)のような"わかりやすい"差別主義者ではなく、表面的にはリベラルな白人層の差別意識をえぐり出した。人気コメディアンであるピール監督は不条理な恐怖と笑いが背中合わせであることを熟知し、荒唐無稽なコメディーに振りきれかねないストーリーを絶妙なさじ加減のサスペンス演出で映像化。『スリー・ビルボード』のマーティン・マクドナーを押しのけ、監督賞にもノミネートされる快挙をたぐり寄せた。
『ゲット・アウト』冒頭10分間
果たして来るアカデミー賞授賞式で、本命視される『シェイプ・オブ・ウォーター』とダークホース的存在の『ゲット・アウト』の受賞は実現するのか。いつもは日陰のジャンルから表舞台に躍り出たこの2作品のタイトルがコールされれば、会場は大いに盛り上がることだろう。
文:高橋諭治

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