
長編アニメ、5年ぶり日本勢ノミネート落選の理由は?
アカデミー賞の各部門の中で、毎年日本人の関心が集まるのは、長編アニメ映画賞かもしれない。第75回の2002年度に『千と千尋の神隠し』が同賞を受賞し、近年も日本作品のノミネートが相次いでいるからだ。(斉藤博昭)
2014年『風立ちぬ』ノミネートのときの様子 写真:ロイター/アフロ
しかしこの長編アニメ映画賞の歴史は、まだ浅い。初めて設けられたのが、第74回の2001年度。それまでは、アニメ作品も実写作品と同等に「作品賞」の枠で選考されており、第64回の1991年度の『美女と野獣』はアニメ作品として初めて作品賞にノミネートされた。長編アニメ映画賞に入る条件は、上映時間が40分以上(40分未満は短編アニメ映画賞)で、主要キャラクターおよび、全編の75%がアニメーションで描かれている点。まず映画芸術科学アカデミー(A.M.P.A.S.)が候補作品を絞っていくのだが、今年の場合、最終選考のエントリー作品として26本が選出された。そこには日本映画が5本。『この世界の片隅に』『メアリと魔女の花』『ひるね姫 ~知らないワタシの物語~』『映画「聲の形」』『劇場版 ソードアート・オンライン ーオーディナル・スケールー』である。

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今年のノミネート5本は、『ボス・ベイビー』『ザ・ブレッドウィナー(原題)/ The Breadwinner』『リメンバー・ミー』『フェルディナンド(原題)/ Ferdinand』『ゴッホ 最期の手紙』。これは、ゴールデン・グローブ賞の候補作とまったく同じである。

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このうち3本(『ボス・ベイビー』『リメンバー・ミー』『フェルディナンド』)が、ハリウッドのメジャースタジオの配給作品。そして『ザ・ブレッドウィナー』は、タリバン政権下のアフガニスタンで、11歳の少女が家族のために男性に変装する物語。アイルランド、カナダ、ルクセンブルクの合作であり、賞レースにふさわしい社会派の側面も濃厚で、ロサンゼルス映画批評家協会賞ではアニメーション賞を受賞した。『ゴッホ 最期の手紙』は、イギリスとポーランドの合作。ゴッホの絵画をアニメーションで再現するという斬新な表現で、世界各国の映画祭などでも高い評価を受けてきた。全体的には、バランスのとれた5本とも言える。ただし、2016年度は5本のうち、ハリウッドメジャー作品が2本。2015年度は1本だったことを考えると、メジャー系作品の割合が高くなったことも実感させられる。この結果に影響を与えているのは、投票ルールの改正だという見方もある。今年度から、長編アニメ映画賞ノミネートの投票を、アカデミーの全会員が行うようになったからだ。これまでノミネートの段階で全会員が投票できるのは、作品賞と外国語映画賞のみ。それ以外は、各部門の会員の投票でノミネート作品が決まっており、長編アニメーション部門も、アニメーターなどが所属するアカデミーのアニメーション分科会の投票によるものだった。それが一気に、全会員に門戸が開いたのである。このルール変更は、アニメーション作品の興行における重要性が認識されたためでもあるが、アニメーション賞のノミネートを狙うためだけの劇場公開作が増えたことへの批判や、より多くの人が認める作品に賞を与えるべきだという、シンプルな理由も含まれている。ルール変更の影響がノミネートの結果に劇的に表れたかどうかは、今年度だけでは何とも言えない。ただし、選考対象を目指す日本映画やインディペンデント系の作品の場合、公開規模が大きくないので、このルール変更は逆風とまではいかなくとも、追い風にはならない。今後、数年間の結果によって、ルール変更の影響が見えてくる可能性がありそうだ。
今後の日本映画と長編アニメ映画賞の関係を占ううえで期待したいのは、新たな"巨匠"の登場だろう。過去4年の実績だけでなく、それ以前のノミネートも、すべてスタジオジブリの作品であった。受賞作『千と千尋の神隠し』の監督で、アカデミー賞で名誉賞も受賞した宮崎駿は、ハリウッドでもレジェンドとして認められ、その威光がジブリ作品全体への期待や評価にもつながっている。宮崎駿の後を継ぐ才能は、すでに日本や海外のアニメファンの間では数多く名前が挙がっているが、ハリウッドの中心や、アメリカの一般観客に強くアピールするまでには至っていない。"ポスト宮崎"の出現が、アカデミー賞の長編アニメ映画賞で日本映画が存在感を示す、一つの大きなきっかけになるかもしれない。
記事:斉藤博昭

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