掲載期間:2020年1月14日~3月8日

第92回2020年アカデミー賞特集

作品賞は「白すぎるオスカー」復活で大逆転劇? 予断を許さないアカデミー賞の行方

Getty Images

いよいよ2月9日(日本時間10日)に迫った第92回アカデミー賞授賞式。主な前哨戦もすべて終了したので、今年の行方も見えてきた。賞レースの初期から、例年にない混戦といわれてきた作品賞。当初は『アイリッシュマン』、『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』あたりがフロントランナーだったが、1月5日(日本時間6日)のゴールデングローブ賞で作品賞(ドラマ部門)を受賞した『1917 命をかけた伝令』が、この1カ月間で急速にトップに躍り出た状況だ。

最後まで予断を許さない作品賞の行方

『1917 命をかけた伝令』は、アカデミー賞作品賞と結果が重なることが多いPGA(全米製作者組合)の劇場映画賞を受賞。昨年の『グリーンブック』、一昨年の『シェイプ・オブ・ウォーター』も、この賞からオスカーに到達した。過去12年では10回、PGAとアカデミー賞作品賞の結果が一致している。さらに『1917 命をかけた伝令』は、DGA(全米監督協会)で長編映画部門を受賞。英国アカデミー賞でも作品賞を含む最多7部門を受賞。「前哨戦を制した」と表現してもいいほどだ。

ただし3年前、あの「封筒の受け渡しミス」で、作品賞が『ラ・ラ・ランド』と読み間違えられ、『ムーンライト』に訂正された2016年度は、PGA、DGA、英国アカデミー賞をすべて制したのが『ラ・ラ・ランド』だったので、今年も最後の最後まで予断を許さない。現段階で『1917 命をかけた伝令』と争える位置にいるのは、3作品。やはりアカデミー賞とも重なることが多い放送映画批評家協会賞の映画部門作品賞の『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』、SAG(全米映画俳優組合)アワードで最高賞にあたるキャスト賞に輝いた『パラサイト 半地下の家族』、そして今年度のアカデミー賞でノミネート数が最多11部門の『ジョーカー』だ。前哨戦の結果かから、『ジョーカー』はやや不利だが、さらに『アイリッシュマン』まで含めた計5作品が、アカデミー賞作品賞の確率が「ゼロではない」位置にある。つまり、監督賞にもノミネートされた5作品ということだ。

(C) 2019 Universal Pictures and Storyteller Distribution Co., LLC. All Rights Reserved.

Netflixの期待を背負う『アイリッシュマン』は?

昨年は『グリーンブック』が作品賞に輝いたものの、『ROMA/ローマ』が最後まで有力作として争い、Netflix初の栄冠が期待された。今年、その期待を背負ったのが『アイリッシュマン』だったが、Netflixの快挙は来年以降にお預けになりそう。とはいえ、作品賞には『マリッジ・ストーリー』とともに2作品がノミネート。演技部門は20枠のうち7枠がNetflix作品で占められた。長編アニメ映画賞は5作品のうち2作品がNetflixで、どちらかがディズニー/ピクサーやドリームワークスを破って受賞する可能性も高い。存在感は十分に示し、アカデミー賞を狙うために「Netflixと手を組み」、あるいは「Netflix作品に出演する」という作り手や俳優が、これからも増加することだろう。

Netflix映画『アイリッシュマン』 独占配信中

韓国映画『パラサイト 半地下の家族』に追い風

作品賞に話を戻すと、『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』は、ハリウッドへの愛と敬意がアカデミー会員の心をくすぐる好材料はあるし、『ジョーカー』にも格差や扇動など現代社会を反映したテーマがアカデミー賞にふさわしいが、それ以上にダークホースなのが『ジョーカー』と同じくテーマ性も申し分ない韓国映画の『パラサイト 半地下の家族』だ。アカデミー賞の長い歴史で外国語作品の作品賞はゼロ。昨年もメキシコを舞台にした『ROMA/ローマ』が逃したので、ハードルは高い。『パラサイト 半地下の家族』はカンヌ映画祭で、『ジョーカー』はヴェネチア映画祭で最高賞に輝いているが、そこからアカデミー賞作品賞につながる例が極めて少ないのもハンデではある。

しかし今年、ノミネートへの批判が『パラサイト 半地下の家族』に追い風になる可能性もある。「白すぎるオスカー」が復活してしまったからだ。演技部門20枠のノミネートのうち、黒人は主演女優賞のシンシア・エリヴォ(『ハリエット』)のみ。当初、ゴールデングローブ賞で主演女優賞(コメディ/ミュージカル部門)を受賞したオークワフィナ(『フェアウェル』)や、ソン・ガンホ(『パラサイト 半地下の家族』)らのアジア系、エディ・マーフィ(『ルディ・レイ・ムーア』)、ジェイミー・フォックス(『黒い司法 0%からの奇跡』)あたりもノミネート入りがささやかれたが、4年前の2015年度、演技賞20枠で有色人種がゼロだった「白すぎるオスカー」に逆戻りした感もある。昨年は演技賞受賞4人のうち2人が黒人、1人はエジプト系だったので、なおさら「後退」という印象が強い。その「白すぎるオスカー」への抵抗が、もしかしたら作品賞で『パラサイト 半地下の家族』への得票に表れるかもしれない。前哨戦の結果も込みで、この大逆転劇は現実味も帯びている。

(C) 2019 CJ ENM CORPORATION, BARUNSON E&A ALL RIGHTS RESERVED

「白すぎるオスカー」批判でサプライズの可能性

作品賞は無理でも、監督賞がポン・ジュノ(『パラサイト 半地下の家族』)という可能性もあるだろう。アジア人として初の快挙で、そうなれば日本でも大きなニュースになるはずだ。作品賞と監督賞がどんな組み合わせになるかも、今年は比較的、予想が難しい。それに対して、前哨戦の流れから、ほぼ予想どおりの結果になりそうなのが演技賞の4部門である。SAGアワード、英国アカデミー賞では、主演男優賞のホアキン・フェニックス(『ジョーカー』)、主演女優賞のレネー・ゼルウィガー(『ジュディ 虹の彼方に』)、助演男優賞のブラッド・ピット(『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』)、助演女優賞のローラ・ダーン(『マリッジ・ストーリー』)が揺るぎない結果を残した。ここ数年、演技賞は作品賞と比べて、かつてのようなサプライズが少なくなっていたのだが、昨年は主演女優賞で大本命のグレン・クローズ(『天才作家の妻 -40年目の真実-』)を破って、オリヴィア・コールマン(『女王陛下のお気に入り』)が受賞する「波乱」も起こった。今年、そのサプライズの可能性があるとしたら、やはり主演女優賞ではないか。前述した「白すぎるオスカー」への批判が影響するなら、ここでシンシア・エリヴォに票が集まるかもしれない。ただ、なんだかんだ言って保守的なアカデミー会員であるので、これはわずかな希望だろう。

(C) 2019Universal Pictures

今年も「時代として訴える」傾向は続くのか

作品賞も主演女優賞も、本質の評価ではなく「多様性」を意識して投票していいのだろうか? そのような考え方もあるかもしれない。しかもトランプ政権が、とりあえずの最終年を迎えている現在、映画人があえて多様性を声高に叫ぶ風潮もやや停滞してきた感がある。しかし、『グリーンブック』、『シェイプ・オブ・ウォーター』、『ムーンライト』、『スポットライト 世紀のスクープ』と過去4年の作品賞の結果を振り返ると、人種や愛の多様性、マスコミ報道のあり方など、「時代として訴える」傾向は、近年のアカデミー賞の特徴でもある。『1917 命をかけた伝令』も、もちろん戦争の虚しさをテーマにしているものの、それ以上に作品のチャレンジ精神と完成度が高く評価されている。どんな基準で投票するアカデミー会員が多いのか。その結果が現在の映画界の何を反映しているのか、楽しみにしたい。

本年度アカデミー賞
全部門ノミネート一覧をみる

文:斉藤博昭

その他の今年の見どころ記事

今年の見どころをもっと見る

アカデミー賞授賞式は2月10日午前10時(日本時間)

Yahoo!映画の公式ツイッターのフォローで、ノミネート発表・受賞発表リアルタイムで速報投稿予定!

レッドカーペット&授賞式の様子

無料の名作映画

アカデミー賞過去受賞・ノミネート作品の名作映画

ニュース・結果速報