掲載期間:2018年1月24日~3月15日

第90回2018年アカデミー賞

今年の見どころ

ギレルモ・デル・トロ監督が日本人クリエイター、辻一弘に「彼の仕事は素晴らしい」

「スピーチの内容はあえて考えない」
今年のアカデミー賞で最多13部門のノミネートを果たした『シェイプ・オブ・ウォーター』。
人間のヒロインと、人間ではない生き物のラブストーリーという異色の設定ながら多くの人の心をつかんだのは、ギレルモ・デル・トロ監督の手腕の賜物(たまもの)。作品賞や、デル・トロの監督賞の受賞に期待が高まっている。
第79回で6部門にノミネート(うち3部門で受賞)された『パンズ・ラビリンス』以来となるアカデミー賞授賞式への出席や作品にかけた思いなどを、来日したデル・トロ監督が語った。(取材・文:斉藤博昭 撮影:永遠)


日本人クリエイター、辻一弘に「彼の仕事は素晴らしい」
「『シェイプ・オブ・ウォーター』の製作期間は5年。ポストプロダクションも入れると6年かかっているので、今はその達成感に浸っている感じかな。
最高のごちそうを平らげて、『お代わりは結構です』という満腹状態。それだけ作りたい映画ができたのだと思う」とデル・トロ監督の表情は満足そのものである。
本作は、デル・トロ作品らしい半魚人のような異形のクリーチャーが重要な役割を果たすが、その肩の部分に、浮世絵師の葛飾北斎が描いた鯉のウロコの表現が模倣されるなど、あらゆる映像が凝りに凝っている。
細部へのこだわりが芸術品レベルの映像に結実しているのだ。
「クリーチャーに関しては、僕は常に質感やデザインを重視する。日本の浮世絵をはじめ世界中の絵画や彫刻もヒントにしながら、過去の映画で観たことのないデザインを目指した。セットや衣装にも細部まで職人の技が生かされている。そうすることで俳優やカメラマンから、通常以上の実力を引き出すことができると思うんだ」とデル・トロ監督は自身の映画作りの「基本」を説明する。


 『シェイプ・オブ・ウォーター』のクリーチャーの造形に、日本人の特殊メイクアップ・アーティスト、辻一弘が参加している点も日本人にとってはうれしいニュース。
「カズの仕事は本当に素晴らしい。彼も授賞式に出席するんだよね?」とデル・トロ監督が話すように、辻は『ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男』で、今年のアカデミー賞のメイクアップ&ヘアスタイリング賞にノミネートされている。別々の作品ながら、授賞式ではうれしい再会になることだろう。


スピーチは準備せず、ありのままの気持ちで!
先のゴールデン・グローブ賞で監督賞を受賞したデル・トロ監督は、スピーチ終了催促の音楽が流れても「もうちょっといいでしょう? あと1分だけ!」と喜びを抑えきれなかった。
アカデミー賞授賞式への意気込みを聞くと、彼は次のように語る。「『パンズ・ラビリンス』で授賞式に出席したとき、受賞自体はまったく考えていなかった。でも、外国語映画賞発表の10秒前くらいに『受賞したらどうしよう?』とものすごく緊張したのを覚えているよ。結局、受賞しなかったけどね(笑)。今回も同じように何も考えずに出席しようと思っている。スピーチも考えていかないつもり。実はゴールデン・グローブ賞ではスピーチを用意していたんだけど、途中で読むのを止めて自分の気持ちを表現したんだ。とにかく感謝の気持ちを表すのが大事だからね」。
過去のアカデミー賞授賞式で印象に残った場面を尋ねると、デル・トロ監督はやはり『パンズ・ラビリンス』の3部門受賞だと断言する。
「映画監督としての務めの一つは、一緒に仕事をした仲間の才能が認められ、彼らに満足感を与えることだ。だから撮影賞、美術賞、メイクアップ賞を受賞した瞬間は忘れられない。本当に美しい時間だった」。


オスカーを受賞した2人のメキシコ人監督との「兄弟のような絆」
そしてもう一つ、心に残るのはメキシコの仲間の受賞だというデル・トロ監督。第86回にアルフォンソ・キュアロンが、さらに第87回と88回にアレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥが監督賞を受賞したのだ。「僕ら3人は、『パンズ・ラビリンス』『トゥモロー・ワールド』『バベル』というそれぞれの監督作で協力し、兄弟のような絆がある。過去のアカデミー賞の歴史で、メキシコ人監督の作品賞や監督賞がなかったので、僕ら3人にはプレッシャーがかかっていたのも事実だよ。そうしたらアルフォンソが『ゼロ・グラビティ』で監督賞を受賞した。あのときの僕らの喜びといったら! 僕の母親なんて『あなたの兄弟がオスカーを獲ったわよ!』って興奮して電話してきたくらいさ(笑)」。

 今年の授賞式では、メキシコ人のオスカー監督、3人目にギレルモ・デル・トロが加わるかもしれない。しかし彼自身は冷静に結果を予想する。「アカデミー賞では、伝記映画や人間ドラマが有利で、ファンタジー要素の強い僕の作品は、少し不利だと思っている。簡単には受賞できないだろう。ただ、僕は作りたい映画を作って、その映画で授賞式に出席できるんだ。そこを評価してもらえるのなら、アカデミーに心から感謝したい」と語るデル・トロ監督だが、もちろん受賞を果たしたら、感情を爆発させるにちがいない。アルフォンソやアレハンドロという"同志"はもちろん、世界中の映画ファンがその瞬間を待ち望んでいるはずだ。

『シェイプ・オブ・ウォーター』の作品情報はこちら

ギレルモ・デル・トロ
1964年、メキシコ生まれ。『クロノス』(1992)で長編映画監督デビュー。『ミミック』(1997)、『デビルズ・バックボーン』(2001)、『ブレイド2』(2002)、『ヘルボーイ』(2004)などのSF、ホラー、ファンタジーを手掛ける。2006年、『パンズ・ラビリンス』がアカデミー賞6部門にノミネートされ撮影賞、美術賞、メイクアップ賞を受賞。近年は『パシフィック・リム』(2013)、『クリムゾン・ピーク』(2015)、テレビシリーズ「ストレイン」(2014~2017)のほか、ピーター・ジャクソン監督の『ホビット』3部作(2012・2013・2014)の脚本を手掛けている。

今年のアカデミー賞授賞式は3月5日(日本時間)に行われます。この特集ページにて速報をお届しますのでお楽しみに!

取材・文:斉藤博昭 撮影:永遠

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