掲載期間:2018年1月24日~3月15日

第90回2018年アカデミー賞

今年の見どころ

名場面をもう一度!第90回アカデミー賞総評

現地時間3月4日、ハリウッド最大の祭典であるアカデミー賞授賞式が、ロサンゼルスのドルビーシアターで開催された。最多13部門ノミネートの『シェイプ・オブ・ウォーター』を、同8部門の『ダンケルク』が追うという構図で、各部門の賞の行方に世界中の関心が集まった。(文:高橋諭治)

『ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男』のゲイリー・オールドマンが主演男優賞、『スリー・ビルボード』のフランシス・マクドーマンド、サム・ロックウェルがそれぞれ主演女優賞と助演男優賞、『アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダル』のアリソン・ジャネイが助演女優賞に輝いた受賞結果は、おおむね事前の予想通り。唯一のサプライズは『ゲット・アウト』のジョーダン・ピールが脚本賞を受賞したことで、その瞬間、会場からはどよめきを伴う歓声が湧き起こった。最終的には作品賞、監督賞、美術賞、作曲賞の4部門を制した『シェイプ・オブ・ウォーター』が最多受賞となった。

作品賞など4部門で受賞した『シェイプ・オブ・ウォーター』(上映中)
(C) 2017 Twentieth Century Fox


日本人アーティスト辻一弘、初受賞の快挙
総じて波乱の少ない結果となったが、個々の受賞シーンには感動的な見どころがいくつもあった。『ウィンストン・チャーチル~』でオールドマンをまったく外見の異なるチャーチルに変身させてみせた日本人アーティストの辻一弘が、その神業的とさえ言える精緻な仕事ぶりを評価され、メイク・ヘアスタイリング賞を日本人として初受賞。マックス・ポーターとの共同監督作品『ネガティブ・スペース(原題) / Negative Space』で短編アニメ賞にノミネートされていた桑畑かほるが受賞を逃したのは残念だったが、89歳にして『君の名前で僕を呼んで』で脚色賞を得たジェームズ・アイヴォリー、実に14度目のノミネート作『ブレードランナー 2049』で撮影賞を初受賞したロジャー・ディーキンスにも大きな祝福の拍手が送られた。

日本人として初めてメイク・ヘアスタイリング賞を受賞した辻一弘
クレジット:Michael Baker / A.M.P.A.S.


辻一弘、受賞時の様子
Phil McCarten / A.M.P.A.S.

さらに、この日最高のハイライトとなったのは、主演女優賞を受賞したフランシス・マクドーマンドのスピーチ。メリル・ストリープら女性候補者たちに起立を促して、女性のアカデミー会員が男性よりもまだ圧倒的に少ない現実を知らしめ、ハリウッドにおける男女格差の改善を訴えたのだ。ユーモアを交えながらも勇猛果敢に問題を提起するその姿は、まさに『スリー・ビルボード』の闘うヒロインのようだった。

『スリー・ビルボード』で2度目の主演女優賞を受賞したフランシス・マクドーマンドのスピーチの様子
Aaron Poole / A.M.P.A.S.


反セクハラ運動の余波
今回のアカデミー賞授賞式は、賞の行方以外にも注目すべきポイントが多かった。まず、ハリウッドの大物プロデューサー、ハーヴェイ・ワインスタインが、長年にわたってセクシャル・ハラスメントを行っていたことを被害者たちが告発した反セクハラ問題。"MeToo運動"と呼ばれる社会現象にまで発展したこの問題は、先のゴールデン・グローブ賞授賞式で多くの女優たちが黒いドレスに身を包み、連帯と抗議の意思を示したことで、アカデミー賞授賞式でも同様の動きが起こるのではないかと見る向きもあった。

左からマーゴット・ロビー、ニコール・キッドマン、シアーシャ・ローナン
Michael Baker / A.M.P.A.S.

実際には『レディ・バード』のシアーシャ・ローナンが淡いピンク、『アイ,トーニャ~』のマーゴット・ロビーがまばゆい白いドレスをまとって参加するなど、90回目の記念すべき授賞式は華やかなムードに包まれた。とはいえ、反セクハラ問題がスルーされたわけではない。司会のジミー・キンメルはオープニングトークで映画業界から追放されたワインスタインについて触れ、「わたしたちは世界に向けて模範を示さないといけません。職場でのセクハラを止めることができれば、女性はそれ以外の場所でのセクハラに耐えればいいのだから」と辛辣なジョークを披露。このような風刺の効いたユーモアは、授賞式のあちこちで見られ、会場の笑いを誘っていた。

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トランプ政権の移民排斥政策に対抗する風潮
また、アフリカ系の女優ルピタ・ニョンゴやパキスタン出身のコメディアン、クメイル・ナンジアニ(『ビッグ・シック ぼくたちの大いなる目ざめ』の製作総指揮&脚本&主演)らが登場したプレゼンターの人選には、トランプ政権の移民排斥政策に反対するアカデミーの明快なスタンスがうかがえた。トランスジェンダーへの差別問題を扱ったチリ映画『ナチュラルウーマン』が外国語映画賞を受賞し、異色の"人種差別ホラー"『ゲット・アウト』が脚本賞を獲って脚光を浴びたことも、現在のアメリカの不穏な政治状況と無縁ではないはず。そう考えると、メキシコ生まれのギレルモ・デル・トロ監督が移民として国境を越え、人間の多様性の素晴らしさを描き上げた『シェイプ・オブ・ウォーター』でオスカー像を手にするという"夢"を叶えたことは、象徴的な"ハッピーエンド"と言えよう。

プレゼンターを務めたルピタ・ニョンゴ&クメイル・ナンジアニ
Aaron Poole / A.M.P.A.S.


そして昨年、集計結果を管理するスタッフのミスにより、作品賞のタイトルが誤って読み上げられるという世紀の珍事が発生したことは記憶に新しい。それを受けて今年のプレゼンターを務めたのは、何と昨年に引き続いてウォーレン・ベイティ&フェイ・ダナウェイの『俺たちに明日はない』カップルだった! この思わず頬が緩むような心憎い演出も、授賞式のクライマックスを大いに盛り上げていた。

文:高橋諭治

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