掲載期間:2019年1月17日~3月20日

第91回2019年アカデミー賞特集

『ボヘミアン・ラプソディ』がアカデミー賞にたどり着いたわけ

 アカデミー賞で作品賞候補となる作品は、ある程度、作り手側が「狙っている」ケースが多い。そのため、スタジオ側は有力作品を、前哨戦につながるヴェネチアやトロントの国際映画祭に出したり、より賞レースでインパクトをつける年末に公開したりする。しかしそういった作り手側の思惑と裏腹に、勢いでアカデミー賞候補となる作品も少数ながら存在する。『ボヘミアン・ラプソディ』は、その例で、2018年の前半、この映画がアカデミー賞の作品賞候補になると予想した人は、ほとんどいなかったはずだ。

(C) 2018 Twentieth Century Fox

 『ボヘミアン・ラプソディ』が公開に至るまでさまざまな困難があったことは、すでに多くの人が知っているだろう。10年くらい前からプロジェクトが動き始めたものの、フレディ・マーキュリー役に何人もの俳優の名が挙がっては消え、ようやくラミ・マレックで撮影が開始されるも、途中でブライアン・シンガー監督が現場に来なくなり、降板という緊急事態に見舞われる。こうした経緯の作品が傑作になる可能性は低いと思われていた。

クイーンブームが全世界で巻き起こるまで

 しかし2018年の4月、シネマコンで一部の映像を観た全米興行関係者(劇場側)の反応が上々で、日本でも「これは当たる」と公開スクリーン数を急遽、増やす措置がとられた。配給の20世紀フォックス映画も宣伝を強化し始め、夏休みに大々的に劇場に流された予告編に熱いリアクションが起こり、お正月映画「直前」のダークホースムービーとなる可能性も出てきた。クイーンをリアルタイムで知る40〜50代の観客にアピールすると考えられたのだ。その期待感は急激にアップしていき、公開前、日本で行われたマスコミ向けの完成披露試写会は異例の早い時間に満席になった。そして全米で公開されるや、予想を超える週末の興行収入(5000万ドル)で首位デビュー。全米の数字は最終的に2億ドルに達する。満を持して11月9日、日本で公開されてからの爆発的ヒットの物語は、もはや改めて書く必要もないだろう。

 『ボヘミアン・ラプソディ』はアメリカで年間興行収入の12位であり、特大のヒットというわけではない。しかし、日本で年間1位となったように世界的なブームが巻き起こった(世界興収は年間7位。6位となる可能性も)。クイーンの母国イギリスでは年間5位。意外な熱狂を見せたのは韓国で、年間興収は3位ながら、動員数は1000万人に迫り、日本にも劣らないクイーンブームが起こっている。日本のみならず各国で行われている応援上映(シング・アロング)や、何度でも観たいという欲求を喚起させ、リピーターの続出......。公開当初は物足りなかった批評家の評価も、こうした社会現象的な熱狂に圧倒されていった感がある。実際に作品自体も、構成力(ライヴ・エイドを最後の見せ場にもっていくなど)、編集のうまさは絶妙で、フレディ・マーキュリーの移民としてのアイデンティティーやセクシュアリティの苦悩に迫ったことで、ここ数年の賞レースでも重視される「多様性」がわかりやすく浮き上がり(このあたりが、やや「うわべだけ」という批判もあるが)、テーマとしても申し分ない。

『ボヘミアン・ラプソディ』人気を押し上げた要因とは

 こうして公開当初、アカデミー賞なんて無縁と思われた作品が、観客からの愛によってアカデミー賞作品賞候補になったケースは、2017年度の『ゲット・アウト』、2016年度の『ドリーム』、2015年度の『マッドマックス 怒りのデス・ロード』『オデッセイ』など、毎年1~2本ある。とくにここ数年、一般観客の意向も意識するアカデミー会員の傾向が反映され、2018年、アメリカでの興行収入で年間1位になった『ブラックパンサー』も候補入りを果たした。驚いたのは『ボヘミアン・ラプソディ』が、ゴールデン・グローブ賞の作品賞(ドラマ部門)を受賞したことだ。ミュージカル/コメディ部門で観客に愛された映画が作品賞に輝くことは過去にも多かったが、ドラマ部門では異例。今年はミュージカル/コメディ部門に賞レースで有力な作品が並び、『ROMA/ローマ』が外国語映画賞のみの対象だったという「幸運」もあったにせよ、この番狂わせはうれしいサプライズだった。

 ゴールデン・グローブ賞ではラミ・マレックも主演男優賞(ドラマ部門)を受賞し、ラミはその後、アカデミー賞と多くの投票者が重なるSAG(全米俳優組合賞)でも主演男優賞に輝き、同賞のトップランナーに躍り出た。いくら名演技をしても、作品自体が評価されないと賞に絡むことは難しい。フレディ・マーキュリーが憑依(ひょうい)したようでありつつ、単なる「そっくり」ではないラミの熱演が、『ボヘミアン』の人気を押し上げた部分もあり、作品と演技、その相乗効果がアカデミー賞への道を開いたと言っていいだろう。

写真:Shutterstock/アフロ

■作品賞受賞の可能性は?

 アカデミー賞では、ラミ・マレックの主演男優賞はかなり濃厚になり、ACE(全米編集者組合賞)のドラマ部門で受賞したことで編集賞も有力となった。では『ボヘミアン』の作品賞受賞はどうか? これはやや難しそうだ。監督賞にノミネートされておらず(監督賞ノミネートなしで作品賞受賞は2012年度の『アルゴ』など、わずかな前例)、ゴールデン・グローブ賞以外の重要な前哨戦では作品賞を受賞していない。ここにきて監督のブライアン・シンガーのセクハラ問題がクローズアップされ、受賞へのハンデになるとの報道もある。しかしこのセクハラ問題報道のタイミングは、『ボヘミアン』に作品賞を取らせたくない圧力がはたらいたとも考えられ、それだけ『ボヘミアン』のパワーは脅威であるともとれる。2月25日(日本時間)の授賞式のラストで、もしかして、もしかして、大波乱の結果が......と、『ボヘミアン・ラプソディ』を愛するファンは望みをつなぎとめておいてほしい。

『ボヘミアン・ラプソディ』メイキング映像

『ボヘミアン・ラプソディ』
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文:斉藤博昭

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アカデミー賞授賞式は2月25日午前10時(日本時間)

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