掲載期間:2019年1月17日~3月20日

第91回2019年アカデミー賞特集

オスカー候補作の日本人クリエイターが明かす、一歩を踏み出す勇気

『スパイダーマン』シリーズ初の劇場用長編アニメーションとして注目される『スパイダーマン:スパイダーバース』(3月8日公開)が、現地時間2月24日に発表される第91回アカデミー賞の長編アニメーション部門にノミネートされた。共感を呼ぶ等身大のヒーロー像と、アニメーションならではの多彩な映像表現を組み合わせた今作は受賞への期待が高まっている。そんな本作にアニメーターとして参加したのが、ソニー・ピクチャーズ・イメージワークス(SPI)の若杉遼さん。単身渡米し、ピクサー・アニメーション・スタジオを経て現在トロントのSPIで活躍中の若杉さんが、『スパイダーバース』の舞台裏から、ハリウッドの現場で働くために必要な資質までを語った。(取材・文:神武団四郎)

『スパイダーバース』でキャラクターの表情や動きを担当

本作でキャラクター・アニメーターを務めた若杉さんの仕事は、キャラクターに表情やアクションをつけること、つまり"演技"を指す。「SPIではアニメーターは数人のチームに分かれ、場面(パート)単位で動きを担当します。今回は主要キャラクターのほとんどに携わらせてもらいました」と若杉さん。多くの個性的なキャラクターが登場する中、最も印象に残っているのはヒロインのスパイダー・グウェンことグウェン・ステイシーだという。「これまで携わった作品は子供向けの作品が多かったので、セクシーでかっこいいグウェンは難しいけどやりがいがあるキャラクターでした」

ダイナミックなアクションに加え、繊細な感情表現でキャラクターの存在感を際立たせているのも魅力。監督からの"演技指導"も、これまでの作品以上に細かかったという。「アニメーションに入る前、僕らは自分で演じる姿を動画に撮って動きを確認するんです。あくまで自分用ですが、今回は監督からその動画を見たいとリクエストされました。そして、ここはこんな演技をさせてほしいなど細かく指示をもらいました」と振り返る。

ピクサー時代からキャラクターアニメーションを担当してきた若杉さんには、いつも心がけていることがある。「キャラクターのポーズや動きに、それぞれの背景や性格を反映させることです。例えばグウェンはバレエをやっていたという設定なので、かっこよさと同時にしなやかさを感じられるよう考えました」と"動き"のキモを説明。作業に入る前に参考映像として観た、数々の日本のアニメにもインスピレーションを受けたという。「日本の手描きアニメは、独特のスタイルを持っています。特にアクションシーンは参考になりました」

自分を強くさせてくれたライバルたち

若杉さんが映画の世界に興味を持つようになったのは、映画好きだった両親の影響だった。「高校生の時に観た『スター・ウォーズ エピソードⅠ/ファントム・メナス』(1999)に衝撃を受け、漠然とアメリカでVFXの仕事をしたいと思うようになりました」という若杉さんは、大学に入るとプロユースのCGアニメ制作ソフトMayaを独学でマスター。やがてキャラクターアニメーションに魅せられ、ピクサーを目指すようになった。「大学卒業後に渡米し、ピクサーのアニメーターが教えるクラスがあるサンフランシスコのアカデミー・オブ・アート・ユニバーシティ(AAU)に進学しました」

そんな若杉さんにとって刺激になったのがライバルの存在。「周りを見ると同じようにピクサーや映画業界を目指す人たちばかり。自分のレベルや成績も一目瞭然なので、在学中は日々プレッシャーがありました」と述懐。しかし、そんな若杉さんを支えたのもライバルだった。「校内にラボと呼ばれる自由に使える学習室があり、毎日入り浸っているうちに、情熱のあるメンバーと知り合いになったんです。彼らからアドバイスをもらったり、すごい人をチラ見してへこんだり(笑)。今思えば、彼らと切磋琢磨したことが仕事をする上で一番生きているような気がします」と懐かしそうに語った。

ハリウッドで働くために必要なこと

AAUで学び、ピクサーを経てSPIで活躍中の若杉さん。果たして、日本人がハリウッドで仕事をするのはどれほど難しいことなのか......?「真面目で当たり前のように締め切りを守る日本人は、この業界では貴重な存在です。言葉の問題もありますが、現場には英語が母国語じゃない人たちもたくさんいます。全員がうまく英語を喋れるわけではないので、最低限のコミュニケーションがとれれば問題ありません」と国際色豊かな現場の事情を明かす。

「日本人は重宝されています」と言いつつも、日本人が自己アピールを不得意とすることも指摘する。「日本で暮らしていると、海外に一歩を踏み出すことが高いハードルだったりします。技術や心構えも大切ですが、行っちゃえ! みたいに少し無鉄砲でも飛び出す勇気を持てば突破口は開けてくると思います」

(C)シネマトゥデイ

アカデミー賞受賞よりも大切なことがある

そんな若杉さんに現在の目標を聞くと「具体的な目標はその時々で変わりますが」と前置きしながら、日本の映像産業に貢献することだと語る。「仕事場は海外ですが、日本のアニメや映画を観ながら育ってきました。自分の中の大きな目標として、何らかの形で恩返ししたいという思いはあります」という若杉さんは、週末の時間を使ってオンラインスクール「アニメーションエイド」を運営。CGアニメーターを目指す人々の支援を行っている。

アカデミー賞長編アニメーション部門で候補となった『スパイダーバース』。社内でも「ノミネートはあるだろう」と予想していたそうだが、実際にノミネートされ「ちょっとドキドキ気分を味わっています」と笑う。一方で、ノミネートの事実よりもうれしかったというのが映画を心待ちにしているファンの声。「SNSなどを通し、感想や日本公開が楽しみだという声がすごく増えました。賞を取ることも大きいですが、やっぱりお客さんの反応は気になります。自分が携わった作品を観た人が楽しんでくれる。それが作り手として何よりもうれしいんです」

『スパイダーマン:スパイダーバース』予告編

『スパイダーマン:スパイダーバース』
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若杉遼(わかすぎ・りょう)プロフィール

1987年12月14日、神奈川県出身。2012年にサンフランシスコの美術大学AAUを卒業後、ピクサー・アニメーション・スタジオでアニメーターとして働き、2015年よりカナダ・バンクーバーに移住。現在はソニー・ピクチャーズ・イメージワークスに所属。CGアニメーターやスキルアップ、海外就労を目指す人のためのオンラインスクール「アニメーションエイド」を運営し、講師も務めている。これまでアニメーターとして参加した手掛けた作品に『アーロと少年』(2015)、『アングリーバード』(2016)など。

取材・文:神武団四郎

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