掲載期間:2019年1月17日~3月20日

第91回2019年アカデミー賞特集

『おくりびと』監督が語るアカデミー賞獲得の知られざる秘話

2009年の第81回米アカデミー賞で、『おくりびと』が外国語映画賞を受賞してから10年。オスカー像を手にした滝田洋二郎監督は、あの瞬間に何を感じていたのか。10年ぶりに日本映画の『万引き家族』がノミネートされたいま、日本を代表する映画監督に、あの日を振り返ってもらった。(取材・文:尾崎将司/Yahoo!映画)

Photo:Kevork Djansezian

――受賞した瞬間を改めて振り返ると?
「ジョークというか、漫画みたいというか、でも奇跡というのかな。目に見えない何かがあるんですよ。ノミネートを知ったときは、『おくりびと』のサントラをかけて『アカデミー賞に入りっこない』と思いながら夜中にお酒を飲んでいました。そうしたら俳優の真田広之さんから『おめでとうございます!』と電話が掛かってきたんです。僕の大切な盟友ですからね。うれしかった。映画は何が起こるのか? そういうミステリアスなものです。アカデミー賞はアメリカ映画のための賞ですけど、言ってみれば、極めて日本的なものが、みなさんに伝わったわけです」

――授賞式当日はどのような一日でした?
「当日はドタバタでした。初めてだったので、誰も何をすればいいのか、わからなかったんです。朝食のときに『万が一、受賞したら、1人で登壇してください』と言われました。でも英語が話せないので、通訳と一緒に上がると言ったら、今度は『通訳の席が確保できないので、万が一のときは、1人で登壇してください。ただし、スピーチの時間は45秒以内です』と言われました。次は『スピーチは考えているのか』と聞かれまして、それで、ペットボトルをオスカー像に見立てて、部屋で練習しました。英語のあいさつは『映画のおかげで、いまの僕がある。もう一度ここに来たい』ということだけを言えればいいと。そんなことをしていたら、6時間後には、ペットボトルがオスカー像に代わっていました(笑)」

■「まだアカデミー賞を消化しきれていない」

――受賞から10年。気持ちの変化はありましたか?
「アカデミー賞に限らず、ちゃんと映画に向き合っていれば、そういうことはあるだろうと思っています。いまも真摯(しんし)に自分らしいものを作りたい。ただ映画を撮りたい。それだけですよ。『アカデミー賞監督らしいって何』と思うときもありますが、何を撮っても比べられるのは宿命ですから」

――滝田監督にアカデミー賞がもたらしたものとは?
「まだアカデミー賞を消化しきれていないと感じています。逆にいうと、昔のことは忘れる。映画が好きだったら、誰もが監督になれるし、映画を撮れるという喜びを与えてもらったような気がします」

――映画人としてアカデミー賞はどういう存在でしょう?
「あそこに参加して、ステージから眺める景色は最高でした。参加したことで、映画を作る連帯感みたいなものをすごく感じますから、自分の励みになりました。映画を作る喜びはわかるし、会ったこともない人との連帯感がより強まるのが、アカデミー賞です」

写真:山田勉/アフロ

■「絶対に受賞する流れも来ている」

――是枝裕和監督の『万引き家族』は?
「いい映画だと思いました。いろいろなところで評価されていますしね。だけど、僕には撮れない映画かなと思いました。方法論も含めて、彼(是枝監督)の映画はそうです。だからこそ、彼なんです。そういう意味では自分の映画を撮っていると思います。独自性をちゃんと持っていますね」

「僕の10年前より、彼の10年間を振り返ってあげてほしいです。じつは10年前にアメリカで『おくりびと』の公開が決まったときのキャンペーンで、ロスやニューヨークに彼も別の作品で来ていたんです。つまり、彼は海外を視野に入れながら活動を続けて、自分の撮りたいものを作る体制を整えました。その中でクオリティーも保たないといけないですし、出資者に信用されるだけの自分の力やリーダーシップがなければいけない。そういうことにおいて、彼は相当な苦労をしているはずです。いろんな世界の景色を見てきて、それなりに大きくなったのが今回ちゃんと結実したと思います。それは、『未来のミライ』でノミネートされた細田守監督も一緒です。くしくも、おふたりは同じようなやり方で、しかもメジャーではなくてね。継続するなかで、新しいものを作っていくのは素晴らしいと思います。今回は2本とも受賞すると思いますよ。やっぱり流れですから」

――いい流れが来ていると感じるのですか?
「彼らのこれまでの苦労があったからこそ、いまがあるというのが、とてもよくわかりますし、それは認めるべきだと思います。作り続けるというのは大変なことです。みんな、ビックリする瞬間に立ち会いたいじゃないですか。それも映画の力ですし、今回はいい結果を期待したいです。絶対に流れも来ていると思います」

――最後に是枝監督と細田監督にメッセージを
「たくさんの場所で評価をもらって、本当におめでとうと申し上げたいです。日本映画の誇りだと思います。自分の映画を作ってきた、そのご褒美がたぶんやって来るんだと思います。みんなで授賞式を見ていますから、楽しんできてください」

滝田洋二郎監督プロフィール

1955年12月4日生まれ(63歳)。富山県出身。米アカデミー賞の外国語映画賞を獲得した『おくりびと』(2008年)を手がけたことで知られる日本を代表する映画監督。監督作品の『陰陽師』(2001年)や『壬生義士伝』(2002年)では日本アカデミー賞優秀監督賞などを受賞。2014年に紫綬褒章を受章。最新作は初の中国語映画『聞煙』(ウェンエン)で年内公開を控えている。

取材・文:Yahoo!映画

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