掲載期間:2019年1月17日~3月20日

第91回2019年アカデミー賞特集

『君の名は。』より『未来のミライ』がアカデミー賞に評価された理由

 細田守監督の『未来のミライ』が、第91回アカデミー賞の長編アニメーション部門にノミネートされた。スタジオジブリ作品以外の日本アニメが候補入りするのは、初めてのこと。日本でよりヒットした『君の名は。』(2016年)や、評価の高かった『この世界の片隅に』(2017年)も候補入りを逃していることから、なぜ今作だったのかと不思議がる日本の映画ファンの声が聞こえてくる。(文:猿渡由紀)

(C) 2018 スタジオ地図

 まず述べておきたいのだが、『未来~』が「アメリカで大受けしている」「大ヒットしている」というのは間違いだ。今作は昨年末にロサンゼルスとニューヨークで限定公開されただけで、ほとんどのアメリカ人は観ていない。しかし、カンヌやロンドンなどの映画祭で上映され、スクリーナー(投票者用のDVDやデジタルリンク)を送るなど投票者向けのキャンペーンもある程度なされたことから、業界人の間では結構知られていた。

■批評家たちが4歳の主人公像を絶賛

 そして、実際に観た人たちの評判は、かなり良かったのだ。大手映画批評サイト「ロッテントマト」のスコアは、91%"フレッシュ"。褒めている人が一様に挙げるのは、4歳の主人公くんちゃんの心情が、実に細かくとらえられていることだ。「ロサンゼルス・タイムズ」紙の評論家ケネス・トゥーランは、「ご機嫌だったと思ったら次の瞬間に怒りを爆発させるなど、あの年齢の子供の特徴をよくつかんでいる」と書く。「ハリウッド・リポーター」誌のレスリー・フェルぺリンも、くんちゃんが妹に対して「がまん強くあろうとするのだけれどできない。それどころか時には非常に自分勝手になってしまって、意地悪なことをやってみたりする」と絶妙な描写をたたえた。

 そもそも、家に新しい赤ちゃんがやってくるという設定自体が共感ポイントのようだ。上の子は親の注意が自分に向かなくなったことに嫉妬し、両親は両親でてんてこまいというのは、どこの国でも昔からある状況である。その後、ストーリーはかなり違う方向に行き、くんちゃんは大きくなった妹や、今は亡き祖父に会ったりするのだが、フェルぺリンは、そういった展開も「説教くさくなったりせず、常にチャーミングさとすてきなユーモアのセンスを保ち続ける」とポジティブに受け止める。トゥーランも「一般の意見を気にして細田守氏が自分のビジョンを曲げる必要はない。彼の映画は彼の映画。それを観ることができるわたしたちは幸運なのだ」と批評した。

写真左が細田守監督、右は『万引き家族』是枝裕和監督【(c) getty】

■身近なテーマと日本らしさ

 テーマが身近でありながら、日本らしさがたっぷりあるのもまた魅力のようである。例えば雛人形を片付けるというくだりも、アメリカの映画ではなかなか見ることのない日本の風習だ。もちろん、海外の観客にこびて映画を作らないのはジブリをはじめ、日本のアニメが貫いてきたことで、そこは良さの一つ。『君の名は。』の口噛み酒のシーンも、海外の批評家に強い印象を与えていた。

 その『君の名は。』は、「ロッテントマト」で『未来~』より高い97%"フレッシュ"を獲得している。『この世界の片隅に』も、同様に97%だった。なのに、それらができなかったオスカー候補入りを『未来~』が果たしたことには、賞レースについてまわる、いくつかの要素が関係する。

(C) 2016「君の名は。」製作委員会

 第一に、その年、他にどんなライバルがいるかということ。候補入りするのは5本で、その作品よりも良かった、あるいは単にもっと観てもらえた映画が5本以上あったら、落ちる。ピクサーやディズニーをはじめとするハリウッドのメジャースタジオ作品が最低でも2、3本は入ってくるわけだし、海外の2Dアニメにとっては非常に狭き門なのだ。アニメ部門のノミネーションを決めるのは、アカデミーがその年ごとに設立するノミネーション委員会だが、彼らも対象作品を全部観ないと投票できないわけではない。昨年など、どう考えても『ボス・ベイビー』よりは『この世界~』の方が良作だったと思うが、委員会のメンバーにおいては『ボス・ベイビー』を観た人の方が多かったとしても不思議はない。

■子供向けではないアプローチ

 時代の気分というものも、大いに影響を与える。今年の候補作の一つ『インクレディブル・ファミリー』にも、『未来~』同様、仕事をするママとイクメンパパの夫婦が出てきた。しかし、この二つの映画はまったく違い、『未来~』がアメリカではあまり子供向けと言えないアプローチをしていることも、今作を際立たせた可能性がある。

 また、賞においてはいつも、誰が投票するのかも関係する。近年、アカデミーは意識的にマイノリティー、女性、若い会員を増やしている。昨年はとりわけ海外に向けて招待をかけた。今年は、昨年や一昨年よりも、さらに国際化が進んだ顔ぶれが投票することになるのである。

 だが、それはまだ今年の長編アニメーション部門ノミネーションには反映されるに至っていないかもしれないし、必ずしも今後日本に有利になるとは言い切れない。ヨーロッパ人の方がアメリカ人より日本アニメのファンが多かったりするが、その人たちもヨーロッパのアニメに肩入れするかもしれない。また、現役の多忙な人ほどノミネーション委員会に参加する暇はないのが常だ。

 ハリウッドでも今度は新たに制作会社のスカイダンスがアニメに乗り出すなど、アニメの全体数は増える一方。競争が楽になることは、今後もおそらくないだろう。しかし、アカデミーのテイストの幅が広がることはポジティブなことである。そんな中では、日本のすてきなお宝を発見してもらえることも、もっと頻繁に出てくるのではないだろうか。『未来のミライ』は、そんな未来への第一歩なのかもしれない。

※「ロッテントマト」の数字は全て2019年2月13日時点のもの

『未来のミライ』
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文:猿渡由紀

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