掲載期間:2019年1月17日~3月20日

第91回2019年アカデミー賞特集

『万引き家族』是枝裕和監督が明かす...アカデミー賞直前の心境

外国語映画賞に日本映画としては10年ぶりのノミネートを果たした『万引き家族』。カンヌ国際映画祭でのパルム・ドール受賞以来、多くの受賞・ノミネートを重ねており、10年前の『おくりびと』以来のアカデミー賞受賞にも期待がかかる。授賞式を目前に控えた是枝裕和監督に現在の心境や、アカデミー賞への思いなどを聞いた。(取材・文:斉藤博昭)

写真:塚原桃子/Yahoo!映画

――授賞式が近づき、外国語映画賞を「受賞したい」という意識も高まっているのでしょうか?
「もちろん受賞したい気持ちはあります。ただ、それは自分のためではなく、周囲のためという感じですね。『万引き家族』をアカデミー賞にノミネートするために作品を支えてくれた、アメリカの配給会社の努力を実感していますから。ただ、正直もうおまけみたいな感じで(笑)。『ROMA/ローマ』という圧倒的な本命もいますし」

――映画監督になってから、いつかアカデミー賞を......という気持ちを抱いたことは?
「ほとんど意識してきませんでした。ヨーロッパを中心とした映画祭の状況や、その先の公開を見据えた各国の映画会社の動きは視野に入ってはいますが、アメリカで公開されて、それが賞につながるというのは初めての経験で、予想図も描いていなかったのです。アメリカで話題になるとしたら、権利が売れた『ワンダフルライフ』(1998年)や『そして父になる』(2013年)のリメーク作品だと思っていましたから」

■幸せな気分を味わった候補者昼食会

――今回、外国語映画賞にノミネートされた他の作品について聞かせてください。
「パネルディスカッションがあるので、すべて観ました。『COLD WAR あの歌、2つの心』は、モノクロで撮ることを想定した衣装の色の選び方や、構図の切り方がすばらしかったですね。激動の時代を背景に、男女の関係に焦点を当てた世界に、成瀬巳喜男監督の『浮雲』(1955年)が重なりました。ただ、賞レースの流れでいくと『ROMA/ローマ』が強いでしょう。アカデミー会員の投票は選挙のようなもので、多くの映画賞の積み重ねですから。(アルフォンソ・)キュアロン監督は、僕の映画のシーンを挙げて撮り方を尋ねてくるなど、とにかく好奇心が旺盛。ハリウッドで活躍する彼が母国のメキシコに戻って、自伝的な『ROMA/ローマ』を撮ったことの必然性も含めて評価されていると思います」

――そういった監督たちとの連帯感は、先日(2月4日)の候補者昼食会(オスカー・ノミニーズ・ランチョン)でも感じたのですか?
「最初は昼食会のためだけにロサンゼルスへ行くのは大変だと思ったのですが、行ってみたら、ノミネートされた方全員並んで記念撮影を撮ることになっていて、レディー・ガガの隣に録音のスタッフが並んでいたり、裏方までリスペクトする雰囲気に感動しました。おそらく授賞式ではこんな機会はないと思うので、幸せな気分を味わいましたね。隣のテーブルのガガに思わず写真を頼んだら、キスまでしてくれて......(笑)」

(C) 2018『万引き家族』 製作委員会

■ヒットへの欲がなく作った『万引き家族』

――改めて『万引き家族』が、なぜここまで世界的な支持を集めたと分析しますか?
「これまでの作品とどう違うのか、正直言って分析できていません。ふだんは作品を2時間くらいにまとめる苦労があるのですが、今回はプロットもすぐ書けたし、現場でトラブルもなく、編集も1カ月で終わり、安産でした。以前はカンヌの上映後、アメリカ系のメディアには『ちょっと長い』という批評も多かったのですが、『万引き家族』はそれがなく、興行面でも行けるという予想も出ていました。疑ってましたけど、結果的にはそのとおりになった。監督としては毎回、カンヌのコンペティションや大ヒットを目指して作っているわけではありません。実際に『自分が好き』を優先させた『歩いても 歩いても』(2008年)や『海よりもまだ深く』(2016年)はカンヌのコンペに入りませんでした。『万引き家族』はコンペやヒットへの欲がなく作ったのに、受け入れられた珍しいケースですね」

――カンヌを経てアカデミー賞までたどり着いたことで、国際的活躍への意識が高まっていますか?
「映画監督として選択肢が広がるのはいいことですが、国際的な監督になるという強い意思はないですね。言葉の壁も実感していますから、たとえばすぐに日本を離れて拠点をロサンゼルスに移す、なんてことは現実的ではないでしょう。フランスで撮った新作も、僕に声をかけてくれた人がいたので腰を上げたわけです。でも先日の昼食会で、クリスチャン・ベイルに会ったら『この人で何か撮りたい』と考えちゃうのは事実です。一緒に仕事をしたい役者は世界中にいますから」

――昨年、『シェイプ・オブ・ウォーター』で監督賞を受賞したギレルモ・デル・トロは「母に、いつかアカデミー賞をとって」と言われていたそうです。是枝監督はいかがですか?
「(生前に)母は、僕が一流の映画監督だと思えるようになるのは、紅白歌合戦(NHK)の審査員か『徹子の部屋』(テレビ朝日系)に出たときだと言ってました。周防(正行監督)さんが両方に出たときは、録画したVHSビデオを僕に送ってきたくらいです。その母もアカデミー賞受賞は念頭になかったみたいですね。でも今回、もし受賞できたら、『徹子の部屋』には出演できるかもしれません(笑)」

※『万引き家族』はアカデミー賞ノミネーションを受けて、全国の一部劇場で上映中。

『万引き家族』
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『万引き家族』予告編

是枝裕和監督プロフィール

1962年6月6日生まれ(56歳)。東京都出身。早稲田大学を卒業後、テレビマンユニオンに参加、主にドキュメンタリー番組の演出を手掛ける。1995年、初監督作品『幻の光』が第52回ヴェネツィア国際映画祭でオゼッラ・ドゥオロ賞を受賞して注目される。以後も『ワンダフルライフ』(1998年)、『DISTANCE/ディスタンス』(2001年)と話題作を発表し、海外でも高い評価を受ける。『誰も知らない』(2004年)では、カンヌ国際映画祭にて当時14歳だった柳楽優弥に史上最年少の最優秀男優賞をもたらした。その後もコンスタントに作品を発表。福山雅治を主演に迎えた『そして父になる』(2013年)では第66回カンヌ国際映画祭の審査員賞を受賞。そして、2018年の『万引き家族』で第71回カンヌ国際映画祭の最高賞にあたるパルム・ドールを受賞し、1997年の『うなぎ』(今村昌平監督)以来の快挙を果たした。

取材・文:斉藤博昭

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