掲載期間:2019年1月17日~3月20日

第91回2019年アカデミー賞特集

奇跡のアカデミー賞受賞から10年。『おくりびと』監督のいま

第81回米アカデミー賞の外国語映画賞に輝いた『おくりびと』で知られる滝田洋二郎監督。日本中が沸き返った受賞から10年。日本を代表する映画監督は、初の中国語映画『聞煙』(ウェンエン)に挑戦している。なぜいま中国でメガホンを取ったのか、最新作が完成間近の滝田監督に聞いた。(取材・文:尾崎将司/Yahoo!映画)

写真:山田勉/アフロ

――中国語映画の『聞煙』(ウェンエン)を撮った経緯は?
「中国原作の映画で中国でしか公開しない予定ですが、原作を読ませていただいて、自分らしい作品にできればと思って撮りました。『わざわざ僕がやるの?』と思うと同時に、そこを面白がってみたいと思いました。もう理屈ではなくて、どこかで日本の映画人としての危機感もあります。というのも、アジアを代表する出演者はもはや日本人ではなく、中国人になってきて、中国そのものが持っているパワーというか、そういうところに行くと、いろんな映画ができそうな気がして、飛び込んでみようと思いました」

――『聞煙』(ウェンエン)はどのようなストーリーですか?
「中国のある家族の物語です。地方のお菓子屋のそこでしか出せない味の跡取り問題を描いています。なぜか息子に秘伝を教えない父親と、継ぎたいけれど反発してしまう息子の関係が、父親が亡くなることによって、ある秘密が明らかになるという話です。話だけ聞くと、日本的な話なんじゃないかと自分では解釈しています」

――撮影を終えられた、いまの手応えは?
「これがわからないんです。手応えが。相撲で例えるなら、立ち合いでふわーっと立つと、負けてしまうことがありますよね。映画の場合は、ふわーっと立ちながら、いつのまにか、そこで誰かと戦っているけど、ふっと終わってしまうような。つまり、はっきりとした勝ち負けがないんです。今回はそういうところがあって、どういう評価をされるのか、まったく予測がつきません。まして中国の人が見るわけですし。とはいえ、映画は世界中共通のはずだから、感動は一緒だろうとも思っています。言葉も違うし、やり方も違うし、誰に向けて作っているのか不安になるときもありましたが、すごく勉強になりました」

■「ジャニーズはご一緒すると仕事はすごい」

――『聞煙』(ウェンエン)には中国人俳優のハンギョンが出演しているそうですね?
「アイドルグループSUPER JUNIORの元メンバーで、韓国でものすごい人気だったのが中国に戻ってきて、いまは俳優をやっています。キャスティングを公募しているときに『出たい』と言って来たんです。最終的には彼を選んで、相当やる気になって、ちゃんとやってくれました」

――滝田監督はジャニーズの俳優を起用した映画もあります。
「ジャニーズはやっぱりすごいですよ。V6の岡田准一さん(2012年公開『天地明察』で主演)は俳優として素晴らしいです。嵐の二宮和也さん(2017年公開『ラストレシピ ~麒麟の舌の記憶~』で主演)も特別なものを持っています。ジャニーズは、実際ご一緒すると、仕事はすごいですよ」

写真:ロイター/アフロ

■「日本映画を背負っているとは思っていない」

――制作過程で日本人と中国人の違いを感じたことは?
「日本人がもっている、いい意味の曖昧さというのが、中国にはあまりないようです。映画では、ラストシーンでどういうメッセージを放つかというのは重要です。正解はないので、それこそが作り手の自由。そこの部分の解釈がまるで合わなかったです。中国の人のあいだでも意見が分かれました。日本人は、どうしても明確な何かを求めます。つまり、ポイントをはっきりさせるとか。中国人はそうではなくて、言葉では説明しづらいですが、芝居でそうはやらないだろうというのを、中国人同士なら分かり合えるようです。よく映画でメッセージとか言いますけど、それよりも映っているものをただ見ていただいて、ただ解釈していただくというのが一番面白いですけど、無責任につながり兼ねないので、そこはコントロールしないといけないと思っています。いまだ映画、わからずという感じです」

――映画がわからないというのは?
「答えがたくさんあるということです。答えはひとつではないことに気づき出しました。いまは寛容さがなくなったというか、いろいろな違いに対しても、批判が大きくなったりします。もっと自由で答えがたくさんあることに気づかないと、映画の見方はつまらないという気はしています。映画って、いつまでやってもわからないですね。いい映画って何だろうと、いつも考えています」

――これから世界と戦っていきたい気持ちは?
「日本映画を背負っているとは思っていないです。映画は人とカネが集まると、才能もエネルギーも集まります。それは面白いことですよ。才能が集まるとは、可能性があるということです。できなかった映画ができる可能性がある。否定するわけではないですけど、日本では着地点が全部見えるような映画しか作られない。『僕らはみんな生きている』(1992年)を撮った当時は、お金はかかりましたけど、誰も着地点が見えていない映画でした。でも、それで育てられましたし、そういう意味で言うと、日本映画界の興行のあり方や作品のバランスは極端すぎるような気もします。海外に出て行けば、日本人が絡むような面白いことがいっぱいあると思います」

※滝田洋二郎監督が手がけた中国映画『聞煙』(ウェンエン)の公開は年内の予定。日本公開は未定。

滝田洋二郎監督プロフィール

1955年12月4日生まれ(63歳)。富山県出身。米アカデミー賞の外国語映画賞を獲得した『おくりびと』(2008年)を手がけたことで知られる日本を代表する映画監督。監督作品の『陰陽師』(2001年)や『壬生義士伝』(2002年)では日本アカデミー賞優秀監督賞などを受賞。2014年に紫綬褒章を受章。最新作は初の中国語映画『聞煙』(ウェンエン)で年内公開を控えている。

取材・文:Yahoo!映画

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