掲載期間:2019年1月17日~3月20日

第91回2019年アカデミー賞特集

「愛される映画」を重視し始めた...アカデミー賞が残したもの

「本命不在」。今年度のオスカーに向けた賞レースは、早くから作品賞において絶対的優位に立つ一本が生まれず、混沌(こんとん)としていた。結局、締めとなるアカデミー賞でもその流れのままだったと言える。全体的に賞がバラけた印象のある、授賞式の結果だった。

写真:Getty Images

■最有力だった配信作品『ROMA/ローマ』の功績

もし『ROMA/ローマ』が最後に作品賞を獲得していたら、全体として『ROMA/ローマ』が混戦状態の中で「一人勝ち」したというインパクトを与えていただろう。作品賞というその年の代表作になっただけでなく、監督賞、外国語映画賞、撮影賞に、作品賞を加えた「4部門受賞」で、その数でも『ボヘミアン・ラプソディ』と最多を分け合ったからだ。結局、日本のニュースでは「ボヘミアン4冠」、「作品賞は『グリーンブック』」という見出しが中心となり、『ROMA/ローマ』の快挙はそれほど大きく伝えられなかった。

とはいえ、最後の最後まで最有力の一本としてオスカーレースをにぎわせたことで、作品賞を逃したとしても『ROMA/ローマ』が映画業界に与えたインパクトは大きい。Netflixが作家性の強い、商業的には難しい作品に対し、金銭的にバックアップして制作させてくれるうえに、アカデミー賞作品賞への道筋を作ることが「常識」となった。近い将来、Netflixに限らず、ストリーミング(配信)系の作品が最高の栄誉に輝く日は確実に訪れるはずで、『ROMA/ローマ』の功績は称賛に値する。

写真:Getty Images

■作品賞に輝いた『グリーンブック』の勝因

作品賞受賞の『グリーンブック』は、下馬評では『ROMA/ローマ』に続く2番手であり、トロント国際映画祭の観客賞から賞レースを牽引してきたので、この結果に大きなサプライズはない。しかし、本投票の前に監督のピーター・ファレリーの過去のセクハラが明るみになったうえに、ジャンルとしても基本はコメディーで作品賞には、やや不利。2014年度の『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』など、「どちらかといえばコメディー」的な作品の受賞もたまにあるが、『グリーンブック』のようにエンタメ的に素直に楽しませる作りで、作品賞に到達するのは極めて稀な例だ。

もちろん『グリーンブック』の最大のテーマは、人種を超えた友情であり、ここ何年かアカデミー賞での必須トピックである「多様性」を文句なくクリアする。しかも作家性や社会性以上に、そのテーマを軽やかにエンタメとして映画の観客に届けたことが、最終的な評価のポイントだった気がする。

写真:Getty Images

■『ボヘミアン・ラプソディ』が果たした役割

『グリーンブック』の作品賞が象徴するように、『ボヘミアン・ラプソディ』の4冠、『ブラックパンサー』の3冠と、今年のアカデミー賞では「多くの人に愛された」作品が躍進した。とくに『ボヘミアン・ラプソディ』はノミネート5部門のうち、作品賞以外の4部門を制覇しており、これは世界中の「ボヘミアン」ファンからのアカデミー賞への期待感が、無意識に反映された部分もあるだろう。ラミ・マレックの主演男優賞がその象徴で、監督降板の悪条件での熱演という観客および業界内からの支持に、結果的に彼の「エジプト系」という出自が多様性と結びつけられることにもなった。『ボヘミアン・ラプソディ』自体も、移民問題、セクシュアリティなどを描いていることで、『グリーンブック』と同じく、多様性をエンタメとして届ける役割を果たしたことが、アカデミー賞につながったのだ。

写真:Getty Images

■ブラックパワー躍進の背景にあるもの

『ブラックパンサー』も、やはりマーベル初のアフリカ系ヒーローで、メインキャラクターのほとんどが黒人という人種問題のトピックはあるものの、それ以上にアメコミヒーロー映画として作品賞に限りなく近づいた点が、他部門への投票への強い後押しになった。SAG(全米俳優組合賞)で作品賞に当たるキャスト賞を受賞したことで、アカデミー賞でも作品賞に輝く可能性が、わずかだが広がったのだ。さらに今年はアカデミー賞が、視聴率回復のためもあって「人気映画賞」を設けようとした経緯がある。2018年、全米ナンバーワンのヒットを記録した『ブラックパンサー』がその栄誉を受ける可能性が高かったが、結局、多くの批判が集まって新たな賞の設立は撤回。そうした『ブラックパンサー』を巡る騒動と勢いが、3部門受賞という結果に表れている。授賞式全体でも、助演男優賞のマハーシャラ・アリや助演女優賞のレジーナ・キング、脚色賞のスパイク・リーなど、ブラックパワーが数年前の「白すぎるオスカー批判」の反動もあって躍進。この全体的な「空気」が、『ブラックパンサー』に力を与えたのも事実ではないか。

写真:ロイター/アフロ

■アカデミー賞は「愛される映画」を重視?

ここ数年、何かと「多様性」と結びつけられる、アカデミー賞の結果。今年もその流れをくみながら、『グリーンブック』、『ボヘミアン・ラプソディ』、『ブラックパンサー』という、エンタテインメントとしての面白さが、大きなウェイトを占めたのが特徴的だった。アカデミー賞が、より「多くの人に愛される」映画を重視し始めているのか? その傾向が正しいかは、来年の結果を待って判断するべきだろう。

文:斉藤博昭

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